お菓子資料館
古今東西もみじの話
カエデともみじ
「カエデともみじ」by Hajime HAYASHIDA
浜松市にお住いの林田甫さんのホームページです。
「カエデともみじ」について植物から文化までいろいろな情報が載っています。


外国のもみじ
十月の上旬にナイアガラの滝のあたりを旅行したことがある。主目的はバッファロー空港から百キロばかり南下したところにある、よほど詳しい地図でないと載っていないような町にあるボナヴェントゥラ大学の、図書館の一角にあるフランシスコ会研究所を訪ねることであった(ちょうど校訂版オッカム全集を刊行中。これの完成がオッカム研究の飛躍的進展をもたらし、世界的に貢献している)から、カナダに入ることは予定していなかった。しかし、ニューヨークから同行したワイフと二人、好天にも恵まれ、ナイアガラの滝への寄り道を思い立って空港で車を調達し、地図を片手に国境をまたぐ橋の袂まで行ったところが、車両一方通行だったために、戻るに戻れなくなってしまい、やむなく橋を渡ってカナダに入国することになってしまった。もっとも、検問所を通過してすぐに傍らにあった移民局の窓口に出向き、間違えて入国したと告げてUターンすることができたので、旅の恥はかき捨てとはいうものの、まったく赤面のいたりである。

 もう十年も昔のことになるけれども、このとき、カナダに近いニューヨーク州の北辺でのドライブ中に体験した大規模な紅葉は、いまでも時々思い出しては懐かしい気持ちになる。外国での紅葉の体験として、これ以上のものはまだないので、今にして思えば、もう少しカナダ側をみてまわる余裕があってもよかったと、勝手な反省をしている。ナイアガラの滝から大西洋に注ぐセントルイス川に沿って、下流のケベックまでの八百キロの道程はメープル街道とも呼ばれていて、特に紅葉が美しいことで知られているということを後から聞いた。

 カナダの国旗には真ん中の白地に真っ赤なメープルリーフがあしらってある。カナダ特産のメープルシロップを採るシュガーメープル(サトウカエデ)の葉であろうか。そうだとすると、よほどカナダ産のメープル・グッズの売り込みに熱心なようで、まさに国をあげての宣伝であるけれども、イロハモミジとは少々形が違うので、どうもぴんとこない。モミジの名所といえば、やはり高雄とか宮島とか、思い浮かぶ地名は日本にある。しかしそれを当然と決めつけてしまうには、まだ見聞が足りない。

 ヨーロッパにも古くから何種類ものモミジ(カエデ)があったことが知られている。古代ローマ時代に博識家のプリニウス(西暦79年、ヴェスヴィオス火山の噴火を調査中、有毒ガスを吸って窒息死)は、『博物誌』の中で、カエデの材質がシトロンに次いですぐれていると指摘してから、さらに次のように記述している。「カエデには何種類かある。白カエデはきわだって明るい色をしている。これはガリア・カエデと呼ばれていて、ポー川以北のイタリアからアルプスを越えたあたりに生えている。波状の斑点のあるカエデもある。その中でも優れた種類のものは、クジャクの尾羽に似ているところからクジャク・カエデと名付けられており、主にイストリア(アドリア海最北部に突き出た半島)やラエティア(チロル地方)に生育している。太い縞のものは劣っている。」ただし、プリニウス自身が実地に見たのかどうか怪しいところがあるし、紅葉をほめている様子もない。手元の伊和辞典を引いて見ると、「アチェロ・ジャポネーゼ(acero giapponese)」に「モミジ」の訳語をあてているけれども、これだけでは植生は不明である。やはりモミジは日本に限るということなのかもしれないと思いながらも、赤面を恐れず、旅先で思わぬことを体験してみたい気もする。(2001.5.3)